歯のコラム column
不正咬合予防のための基礎知識
2023.04.19
未指定*予防できる不正咬合がある
15~16世紀のオランダの学者イスラムの言葉「予防は治療に優る」は、すべての医療に通ずるものです。
虫歯や歯周病の予防は近年すばらしい進歩をみせていますが、不正咬合の予防という概念は、まだほとんど進んでいないように思えます。
確かに不正咬合には防ぎきれないものがあるのですが、予防できるものもあるのです。
当院で治療を希望の患者さんのお子さんの問診票では「今後の歯並びが心配」「歯並びを良くしておくために、これからできることを知りたい」このような記載も見られるようになりました。原因を知らなければ予防はできません。
まず、不正咬合の原因について学んでいきましょう。
不正咬合の原因は、大きく2つに分けられます。
①先天的因子
遺伝あるいは家族性発現などが原因となる。
➁後天的因子
環境因子とも言われ、生まれた後の環境が原因となる。
先天的因子は、残念ながら受け入れるしかありません。目の大きさや鼻の高さが両親から受け継がれるように、歯の大きさ・形などは、どうしても親に似てきます。たとえば父親の大きな歯と母親の小さな顎を受け継いでしまえば、歯が並びきらないのは仕方のないことなのです。
しかし、そのような場面と違って、後天的因子が原因で不正咬合になっているのではないかと思われたり、後天的因子が先天的な問題をさらに大きくしているのではないかと思われたりする例があります。そして、この後天的因子による不正咬合が、育児環境の変化により、最近増えてきているのではないかと明らかなデータはないものの、子どもたちの歯を治療している者のほとんどが心配しています。
先天的因子が原因である不正咬合は予防することはできませんが、後天的因子が原因である不正咬合は予防することが可能です。何が原因になるのかを知り、歯並びの良い子に育ててあげましょう。
*後天的因子が(先天的因子による)不正咬合を悪化させている場合がある
先天的因子が原因になっている不正咬合は受け入れるしかないと説明しましたが、だからといって諦めて何にもしないでいいわけではありません。後天的因子を知り対策をしなければ、先天的因子の不正咬合をさらに悪化させていきます。
たとえば出っ歯の場合、ほとんどの子どもが口唇を開いてるため、口唇の力が弱く上の前歯に抑える力が働かないため、ますます上の歯は突出します。さらに、下口唇が上の歯と下の歯の間に入り込むという間違った飲み込み方を続ければ、下の前歯はどんどん内側に倒されて、上の歯が出っ歯になっているように見えてきます。受け口の場合は口唇が開いて唇が低い位置にあるため、舌が下顎の歯列を押しますます下顎を大きくしていってしまいます。
ひとつの症例において、その不正咬合の状態の割合が先天的因子なのか、後天的要因であるのかということは誰にも分かりませんが、少なくとも後天的要因だけは排除して、不正咬合の悪化を防ぐことは出来ると思います。事前に後天的要因を排除することにより、矯正治療が必要になった場合には、治療効果が出やすいと言われています。矯正治療の安定にも繋がります。
血の繋がりはない、とても似た歯並びをしている2人がいます。もちろん先天的因子もあると思われますが、とても口唇が開いていること、飲み込む際に下口唇が下の前歯を強く押してしまうことなど、後天的要因が同じであると、兄弟、親子でなくとも、似たような歯並びになっていくと考えられます。
この子どもたちがこのまま、このような癖を、癖だと知らずに続けていくと、おそらく外科的矯正治療(顎の骨を切る手術を併用する矯正治療)が必要になってくると思われます。後天的要因に気づいて子どものうちに取り除くことが大切でしょう。